成長戦略型M&A 売るM&Aについて
M&A(=Mergers(合併) and Acquisitions(買収)の略)という言葉は日本においても随分と浸透してきました。
特に中小企業においては、昨今、事業承継が困難な場合において頻繁に用いられていることが特徴です。
事業承継が困難というのは、中小企業における経営課題ともいえる後継者不足です。
会社を引き継ぐ子がいない場合において、オーナーは事業の存続の有無を迫られます。
もちろん従業員についでもらうという選択肢はあるのですが、株の売却という問題が発生します。
利益のでている企業は、自社の株価が上昇している傾向にあるため、余程の準備をしていなければ個人で買い取ることはなかなか難しいことであると言えます。
また、利益の出ていない会社の場合は、株価は高くはない(若しくはマイナス)のですが、その分借入金の返済などが困難な状況となっていて、後継者の心理としてはなかなか継ぎたくないというところが本音であることが多いです。
そのような状況において、M&Aにより会社を売却することで、旧オーナーには老後の資金が準備できたり、借入の個人保証を外すことができたりといったことが可能となりました。
日本の中小企業におけるM&Aというのは概ね上記のような例で実施されることが多かったのですが、最近では「成長戦略型」のM&Aといった形で会社の売買を行う企業が増えてきています。
今回はそういったお話です。
成長戦略型M&Aとは
「成長戦略型M&A」とは、文字通り、M&Aを自社の成長戦略として行うことを指します。
とは言いながら、「事業承継型」のM&Aとまったく異なるM&Aとなるわけではありません。
事業承継と成長戦略を同時に遂行していくためのM&Aを行っていくという思考とアプローチが必要となってくるのです。
事業承継型M&Aの限界
事業承継型のM&Aは、良くも悪くも「事業承継」に特化しているため、事業承継は、オーナーの利益の最大化を目的としたり、子の相続税を少しでも安くするといったことが主な目的となります。
そのような事を目的とすること自体は悪いことではないのですが、そちらにのみ主眼を置くとどうしても事業の停滞や経営の不安定を招いてしまうことが多くあります。
オーナー経営者だけが幸せになるのではなく、オーナー経営者も会社もそこにいる従業員たちもみんなが幸せになる。
これが成長戦略型M&Aの特徴と言えます。
事業承継はプライベートな考え方に偏ってしまいがちですが、パブリックな考え方を欠如していては会社は承継の後、あっという間に衰えてしまうかもしれません。
買う成長戦略と売る成長戦略
成長戦略というと、企業を次から次へと買収して企業を強化していく。
そのような印象をお持ちの方も多いと思います。
買収する成長戦略も当然にあるのですが、今回はタイトルのとおり、売ることで成長していくM&Aのお話です。
売ることでどのように成長するのか?
そのようにお考えの方もいらっしゃると思います。
なぜ売ることが成長につながるのでしょうか?
売るという発想からパートナーとして連携するという発想へ
売るというと事業会社が別の会社に吸収し、消滅してしまう印象を受けてしまいます。
しかし、実際には消滅せずに会社は存続し、事業は継続されていきます。
オーナーが変わっただけです。
つまり、売り先が市場シェアを大きく有するような企業であれば、当該企業は、今よりも大きな市場で自社の能力を発揮することが可能になるのです。
特に上場企業などの大手に売却することができれば、その大手が有する価値やノウハウなどを自社で活用することが可能にもなります。
これにより、自社の売り上げを前年比以上にしている企業は多くあります。
上場企業に売却するということは、自社が上場していることに類似します。
そういった観点からも自社の成長ができる可能性はでてくるのです。
売る 買う どちらが良いのか?
これについては、自社の状況に応じて大きく変わってきます。
株主自身がその地位のまま会社を大きくしたいのであれば、買うという選択が基本戦略になってきますし、株主自身の地位に固執しないのであれば売って会社を大きくするという選択肢もあります。
どちらも今後の企業の展開によってプラスにもマイナスにもなることになります。
ただし、スピーディーに大きくしたいのであれば、「売る」M&Aのほうが、断然早く会社を大きくする可能性は高いと言えます。
買う場合は、通常自社よりも小さい企業を買うことが一般的であり、規模を大きくしていくには時間がかかります。
半面、売る場合は、売る相手が良ければあっという間に会社の規模が大きくなります。
このような観点から、「売るM&A」は、自社の成長を促進させる起爆剤となりえるのです。
M&Aという選択肢
今後は、今以上にM&Aという選択肢は増えていくと思います。
これは、経営者の平均年齢が高齢化の傾向から脱していないこと、人手不足により、事業が立ち行かないことなど様々な要因が予想されます。
「買う」、「売る」を柔軟に使い分けて、自社にとっての効用がより高い選択をしたいものです。