節税目的の保険に安易に飛びついてはいけない理由

 保険には、法人が契約者となる「法人保険」というものが存在します。

 法人保険にも一般的な保険と同様さまざまな保険が存在しますが、その保険の種類によっては払い込んだ保険料を「資産」や「損金」に計上をします。
 「損金」に計上された金額は、当該企業の売上から差し引くことが可能となり結果、「利益」を減少させることが可能となります。

 利益を減少させるということで、当該企業が払い込む「税金」を安価にするという効果を得ることが可能になります。
 企業が保険を契約する場合は、「損金」に計上させることで節税効果を得ることを目的とすることが多くあります。

 もちろん保険本来の活用方法としての活用方法もあります。
 それはつまり経営者に不測の事態が生じた場合に、資金的に余裕を持たせるための活用方法です。


 特に中小企業は経営者の資質により事業が遂行されている場合が多くあり、経営者の不在がその事業の遂行に大きなダメージを及ぼしてしまうことがあります。
 そのような場合に備え、資金的な余裕を持つことで何らかの対策を講じることが可能となる状態にすることを目的とする場合などがそれにあたります。

 また、福利厚生を目的とし、従業員を被保険者とする場合があります。
 

 法人保険の契約形態を、契約者=法人、被保険者=従業員とし、保険金の受取人は、満期金=法人、死亡保険金=従業員の遺族とするような契約です。

 これにより、従業員が定年となった場合に満期金を法人が受け取ることが可能となり、会社の規定に従い退職金の予算として活用することができます。
 また従業員が死亡した場合は遺族が死亡保険金を受け取ることができます。


 保険会社が「福利厚生プラン」などとして販売している契約体型ですが、企業は福利厚生を充実させながら保険料の一部を損金として計上することができるといったメリットがあり、税引き後の利益から福利厚生費を支払うより資金効率が良くなることが特徴です。
 この方法は、福利厚生により、人材確保を行いやすくするというメリットがあります。

保険の種類

定期保険

 ある期間に被保険者が死亡した場合に死亡保険金が受け取れる保険です。

 一般向けの定期保険とどうようで、基本的には生存保険金はなく解約返戻金も小さいことが特徴です。
 いわゆる「掛け捨て」の可能性が高く、保険料の損金算入が比較的大きく認められていることが特徴です(しかし、過剰な節税が可能な商品が多くなってしまったことから2019年6月から変更がなされました。)。
 

 この定期保険ですが、法人保険の場合はあえて保険期間を長く設定し解約返戻率を高めているものがあります。
 「長期平準定期保険」や「逓増定期保険」と呼ばれているものがそれになります。

 個人向けの定期保険は保険期間が短く、保険が返戻金のために資金を準備することが難しいのですが、長期平準定期保険や逓増定期保険なら保険期間を長期に設定できるため返戻金を高く設定できる特徴があります。

 被保険者の死亡に備えることが可能であり、かつ、返戻金を利用し資金準備を行うことができるといった特徴を有した保険であると言えます。

養老保険

 養老保険は、死亡保険と同額の「生存保険」が設定されていることが特徴です。

 定期保険は解約し返戻金を受け取りますが、養老保険は解約せずに資金を受けとることが可能です。

 死亡した場合も生存していた場合も保険金が出る厚い保障が特徴なのですが、反面、保険料は比較的高いことが一般的です。



 死亡保険と生存保険が両立した契約で、経費と資産の両面を持った保険であるので、保険料の半分が損金、半分は資産として計上されるのが基本となっています。

 満期が設定されているため資金計画を立てやすく、経営者や従業員の退職金などの資金計画に利用することができます。

ガン保険など傷病保険

 被保険者がガンなど重大な病気に掛かった場合の経済負担に備える保険です。
 被保険者を経営者にするほか、被保険者を従業員とし福利厚生の1つとして実施することが一般的です。

終身保険

 終身保険は被保険者が亡くなるその時まで保障が続く保険です。
 必ず死亡保険金がもらえる契約となっており、資産の意味合いが強く、保険料の全額が資産計上され損金には計上されないことが特徴です。


 損金扱いがないため企業が契約する例は少ないと思われます。
 ただし、死亡保険としての機能はもちろん持っているので、経営者の死亡に備える保険として活用することは可能であると言えます。

損害保険

 法人が契約する保険は生命保険だけではありません。

 火災による事業財産の損害を補償する火災保険や顧客などに損害を負わせた場合に使える賠償責任保険などの損害保険に加入する場合も存在します。


 損害保険の保険料を支払った場合、満期返戻金など保険積立金が設定されている場合は、その部分に相当する金額は資産に計上し、残りは損金に算入するという会計処理が一般的です。

 

 損害保険に加入する際も、契約内容に資産の意味合いがあれば資産計上される点は生命保険と同様となります。

保険加入のメリット

 保険の加入のメリットとしては、資金が少ない時からリスクに対処できることと、損金に計上することで費用を支払った事業年度における節税効果を得られることであると言えます。

 支払った事業年度において、節税効果を得られることで、企業が貯蓄した「内部留保」による対応よりも効率的にリスクに備えることができることが最大のメリットであると言えます。

保険加入のデメリット

 法人保険の加入はメリットばかりではありません。

 デメリットについては、次のようなものが挙げられます。

キャッシュフロー悪化

 保険に加入すると、当然のことながら保険料負担が発生することにより、企業のキャッシュアウトが増える要因となります。

 つまり、

 「キャッシュフローが悪化する=資金繰りがタイトになってしまう」

 といったデメリットを考慮する必要が有ります。

 

 企業は仮に黒字でも、必要な支払いを行うことができないと倒産をしてしまいます。いわゆる「不渡り」や「黒字倒産」といった状態です。

 不渡り自体は直ちに倒産の理由とはならないが、不渡りのペナルティは今後の経営を困難にしてしまいます。

 保険は通常リスクに備えるものだが、あまりにキャッシュフローを悪化させる保険契約はそれ自体が経営のリスクになってしまうことに要注意です。
 保険契約の際には資金繰りには十分に考慮した上で加入することが重要です。

返戻金による資金計画

 保険契約によっては解約返戻金が設定されており、企業も返戻金を前提とした資金計画を立てている場合が多くあります。

 返戻金を前提とした資金計画は、現金による資金計画よりも綿密に実施しなければいけません。

 

 なぜなら、返戻金の額は一定ではなく、保険の解約時期に応じて変動するからです。

 解約の時期によっては極端に返戻金が少ないことも十分にありえます。

 このような特徴を有しているため、保険の解約返戻金では想定外の突発的な資金需要に対応することは難しいと言えます。
 資金の柔軟性が低いという点は保険のデメリットといえるだろう。



 安易な保険契約を行わず、資金計画を立てた上で慎重に検討することが大切であると言えます。

その他注意すべきポイント

 その他にも、法人の保険契約を上手に運営していく上ではいくつか注意したい点があります。

返戻金の受け取りは益金となる

 法人が保険金や解約返戻金を受け取る金額は、「収益」として会計の処理を行います。

 つまり、

  「保険料支払い時」=損金(費用)

  「保険受け取り時」=益金(収益)

 といった構造になるので、実質的には節税ではなく、課税を先延ばしにしているだけなのです。(これを課税の繰延といったりします。)

  返戻金を前提とし、節税を目的に保険契約を結んでいる企業は保険の効果を誤認していないかの確認は必要です。

 仮に法人税、法人県民税、市町村民税の合計を35%とし、利益が年間500万円である企業が年間保険料100万円(全額を損金に算入と仮定(現在はこういった商品は存在しません。))の保険に加入するケースを考えてみましょう。

 この保険に10年加入し、10年後に返戻金を1,000万円(返戻率100%)受け取ると仮定します。

 この企業が保険に加入しない場合、年間175万円の税負担が発生する。10年間では1,750万円だ。

 保険に加入すると年間の利益は保険料の支払いにより損金が増加し、400万円の利益に対し、税金が140万円の税金が発生します。つまり10年間で350万円税金を支払わなくて良いことになります。

 
 しかし、解約返戻金を受け取る際に益金として1,000万円計上される。これにより350万円の税負担が発生することになります。

 つまり保険には節税効果がないとも言えます。
(解約返戻金の受け取りの際に、多額の損金が予定されていればもちろん益金と相殺されますが。)

 法人が保険に加入すると税負担の発生時期を遅らせることはできるが、税負担がなくなるわけではないという点を認識したうえで加入する必要があります。

 その他、対税務署への対策として、保険金の受け取りに関する規定を社内において定めておく必要が有ります。
 退職金規定や慶弔規定を定めておくことで益金と損金を相殺することが行いやすくなります。

 しっかりとしたルールを定めて運営していく必要が有ります。

しっかりとした計画に基づいた運用を

 上記のとおり、保険は上手に運用すれば企業の手助けとなる反面、運用を誤ると何の効果も得られない(若しくはキャッシュフローがマイナスな分悪影響となる。)といったことも考えられます。
 安易に加入をせずに慎重な検討が求められる事項であると言えます。



 また、法人保険は「税理士」が代理店となっていることが多くあります。
 「税理士」は企業の財務状況等を把握しており、その税理士が進めるから「加入をした」、若しくは「加入を検討している」といった事業所様も多いとは思います。

 しかし、中には「損金」の計上だけをアピールし、財務面の悪化などを考慮しないまま保険を進める税理士が存在します。

 「税理士」は財務会計のプロであると思うのが普通であると思いますが、一定数まったく把握していない税理士が存在することも事実です。(そもそも財務会計のプロというよりは「税金」のプロであるのですが。)


 ほとんどの税理士先生はそのような無責任な保険勧誘は行わないですが、中には保険料から得られる収入を目的とし、企業にとってあまりメリットの無い、もしくはデメリットとなる保険を加入させようとする税理士が存在することも事実です。


 そのような税理士の勧誘に乗らないように、しっかりとキャッシュフローに関する説明や解約返戻金の受け取りの際の対応などを調整し、説明がない場合や曖昧な場合には加入をしないということも手段の一つであると言えます。


 企業を守るのは最終的には経営者と従業員です。
 部外の無責任な人間の収益のために被害を受ける必要はありません。


 しっかりとメリット、デメリットを把握した上で、効率的な保険運用を心掛けていただきたいと思います。

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