M&Aの成功に必要な買収後のこと PMIとは?
M&Aは事業所の存続や企業の組織力の向上、市場(シェア)の拡大、経営資源の獲得など様々なメリットがあります。
その反面成功率は、20%~40%程度と出典、アンケートの出どころによって若干の差はあるものの、総じて低い成功率であると言えます。
また、2023年10月現在、不安定な世界情勢にかんがみ、世界におけるM&Aの件数に急ブレーキがかかっていると日本経済新聞社は論じています。
以上のように、現時点(2023年)におけるM&Aの状況は決して明るいものではありません。
しかし、事業の存続をはじめとする有効的な手段であることに変わりはありません。
今回は、そのM&Aを成功させるために必要な「買収後」のことについて述べてみます。
M&Aが失敗する理由
M&Aの成功率が低いということは当然理由があります。
その理由をまずは知ることにしましょう。
主なM&Aが失敗する理由については、次のようなものが挙げられます。
① 事業戦略上、買うべき会社を買えなかった(=未遂)。
② 事業戦略上、買うべき会社でない会社を買った。
③ 事業戦略上、買うべき会社ではあったものの、高い値段で買ってしまった。
④ 事業戦略上、買うべき会社を適正金額で購入したものの、購入後経営に失敗した。
列挙すると、当然のことのように感じます。
しかし、M&Aにおいて失敗した後に、振り返ってみるとこのようなことが非常に多くあり、またその反省(=改善)がされていないということも頻繁に起こっています。
これが成功率が向上しない原因の一つです。
それでは、①から順に分析していきましょう
購入前の戦略に関する問題
①及び②においては、M&Aにおけるプロセスにおいて、リサーチ、デューデリジェンス(事業や財務など)の精度が低かった場合において、起こりえる失敗です。
つまり、無理してでも購入する(もちろん無理の度合いには寄りますが)、もしくは購入する必要がなかったというのは、M&Aにおけるプロセス(ディールと呼ばれます。)において判断されるべき事象であり、しっかりとした調整を行うことで改善することは可能となります。
昨今では、M&Aへの関心の高まりとともに、この手の失敗は少なくなってきていると言えます。
購入後に既存の自社と購入した会社
そして、購入後におこる失敗が②、③、④です。
購入後における失敗は、なぜ起こるのか?この件については、その失敗の原因の振り返りや改善は、購入前のそれと比較し、あまり行われていないことが多いように感じられます。
私がM&Aを行った後の事業所に経営の顧問として携わった事業所の中で、鉄を取り扱うといった関連性からM&Aを行ったものの、「鉄を回収し卸売り」をする事業所が「鉄鋼製品を製造する」事業所であり、もともと保有していたノウハウなどの欠如から経営の統合がうまくいかず、思ったとおりのシナジーの創出ができずに経営者が困っていたという話があります。
このようなM&Aにおける経営の統合活動の失敗事例は多くあると思います。
この経営の統合活動のことをPMI(Post Merger Integration)といいます。
M&Aを成功するカギは、このPMIにあるといっても過言ではありません。
なぜPMIがうまくいかないのか?
ではなぜPMIがうまくいかないのかという点においてですが、まずディールに比べて振り返りなどがあまり行われていない点は先にも述べました。
また、M&Aの仲介会社というものは、一般的にM&Aが成立するまでの支援であるため、統合後のことは別のコンサルタントなどに依頼することが必要となってくることが多く、またそのように依頼する事業所もディールの支援依頼と比較すると少ないため、PMIに関するノウハウが少なく失敗するという点が挙げられます。
支援依頼が少ない最も大きな要因としては、ディールについては、非日常的なイベントとなっているため不明確な点が多く支援が必要であるが、PMIに関しては普段の経営の延長であり支援は不要であると考えてしまうということがあると言えます。
本来であれば、企業を購入した後に軌道に乗せてまでがM&Aであるものの、購入した時点で達成したと勘違いしてしまう(M&Aは大きなイベントであり、高揚感などもあることからこのように勘違いしてしまうこともあると私は分析しています。)ことが挙げられるでしょう。
日本一のM&A職人ともいえるニデック㈱(旧名:日本電産㈱)の永守会長は
「M&Aを登山に例えると、成約時点ではまだ二合目。その後はPMIという難しい作業が待っている」
という言葉を日本経済新聞におけるインタビューで残されていらっしゃいます。
永守会長のこの言葉はそのままM&Aの成約率に当てはまるといえるでしょう。
PMIに対する重要性への認識の欠如が失敗を招いてしまう原因ともなりえるのです。
PMIの流れ
それではどのようにPMIを行えば成功するのでしょう?
M&A実施の数だけPMIはあると言えます。
つまり、必ず成功するといった確約がないのがPMIです。
自社と購入元企業によって様々な手法を駆使する必要があります。
そのため、本稿では考え方のみを述べさせていただきます。
PMIとは一般的に次に分類される事項について実施していきます。
PMI その1 経営統合
経営の統合については、経営理念、経営戦略、マネジメント手法(フレーム)などについて統合を行っていきます。
ここでの統合に失敗すると、業務的な統合などをどれだけシステマティックに構築しても無意味になってしまいます。
「組織は戦略に従う(アルフレッド・D・チャンドラーJr)」を体現した統合活動であるとも言えますね。
PMI その2 業務統合
業務の統合とは、業務、インフラ、設備、人材、拠点などといったものを統合していきます。
この統合を実施するには、分科会などを設置し、しっかりと細かいところまで緻密に統合していくことで成功の確率が上がる傾向にあります。
PMI その3 意識統合
これはその1の経営統合とも似てはきますが、ここではより抽象的な企業文化、企業風土に関する統合を行っていきます。
抽象的とはいえ、組織風土というのは顧客への印象や従業員のモチベーションなど非常に重要な事象に関係してきます。
特に企業風土が大きく変わることで従業員のモチベーションが大きく低下するということは大量の離職にもつながるため避けなければなりません。
統合を成功させるには?
PMIの成功には、目標設定が欠かせません。
目標とは経営における数値目標(売上など)はもちろんのこと、達成する時間なども明確に設定しておく必要があります。
ディールにくらべPMIは時間的な制約を設けることが少なく、ついダラダラとした(=課題の先送りなど)統合になってしまいがちです。
しっかりとした目標設定はPMIにおける必須事項であると言えます。
いかがだったでしょうか?
PMIにおける重要性が少しでも伝われば幸いです。
また、PMIに関しては、不明なことセンシティブなことも多くありますので、お困りの際はぜひ専門家へとご相談されることをおすすめいたします。
自社において解決の糸口が見えにくい場合でも、外部からの視点を取り入れることで解決することも多数存在します。
自社におけるPMIの統合プロセスを確立すればM&Aによるメリットを非常に多く享受することも可能になります。
組織の更なる発展を目指し、是非ともM&Aをご活用ください。
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