企業買収時において気を付けたい4つの視点からのリスク

中小企業において、数年前まではあまり関係がなかったM&A

いまでもイメージとしては、「大企業が行う」、「企業を乗っ取る」といったイメージを持たれている方もいらっしゃるかもしれません。
東京商工会議所が行った事業承継においてもM&Aに関するイメージについて、

後継者が決まっていない事業所においては、「M&Aに対してよいイメージを持っていない」が26.5%と悪いイメージを持つ事業所がある事は否定できません。

しかし、M&Aとは事業承継のタイミングで後継者がいない企業を存続させるための一つの方法であり、後継者不足により、廃業を迫られる事業所の増加が見込まれる今後において、実施件数の増加が予想されています。

買収側の企業においても、人材、設備、ノウハウなどの経営資源の不足を補う、既存事業からの脱却を図るといった観点からニーズの増加が見込まれています。
今回はそのような企業の買収時において注意するリスクについて、お話したいと思います。

リスク1 法務面におけるリスク

会社として存続している以上、あらゆる法律を順守している必要があります。

しかし、長い企業経営の結果、法務面がおざなりとなっているような事象も少なくはありません。まずはそのような法務面におけるリスクを見ていきましょう。

株式

会社の設立から現在に至るまでの株式の移転の記録がしっかりとなされておらず瑕疵がある場合や、株券の発行がなされていない等のリスクが存在します。

(注)現在の会社法(平成18年施行)においては、株券は未発行が原則のため発行されていないことが普通です。

正確に株主が把握されていない場合、将来的に経営に影響がでる可能性もあります。

取引先との契約

中小企業の場合、経営者(=創業者、筆頭株主)のカリスマ的能力に依存して経営を行っている場合が多くありました。

そのため、経営者の交代は企業の能力を大きく左右する事態に発展する可能性があります。

そのようなことを防止するため、取引先との間における契約によってM&Aにより継続が難しくなるといった事例があります。

また、自社にとって不利な契約を結んでいるなどといったリスクを抱えている場合もあります。

資産契約

事業に不可欠な賃貸不動産などの契約がM&Aにより継続に制限がかかるといった事例があります。

許認可

許認可の種類やM&Aの方法により、許認可を承継できない等場合があります。(有資格者がいなくなり許認可が得られないなど)建設業や官公庁からの受注を行っている事業などは注意が必要です。

リスク2 財務面におけるリスク

財務は企業力の根幹ともいえるものですが、企業買収時において、以下のようなリスクを抱えている場合があります。

簿外債務

簿外債務とは、その名のとおり、決算書における貸借対照表に計上されない(=帳簿外)の債務のことです。中小企業の場合は、賞与の引当金や退職給付引当金などが計上されていないことが多く、支出時に費用(=損失)となることで企業の価値に影響を与えます。

偶発債務

決算書において債務として計上されていなくても、将来的に債務となるリスクのあるもののことをいいます。係争中の損害賠償や第三者への債務保証等が該当します。一般的に気を付けなければならないのは、「未払の残業代」ではないでしょうか。

未払残業代は従業員からの請求の他、労働基準監督署による調査などにおいても発覚します。

このような決算書上に記載することができないが将来にわたって債務となるものが偶発債務となります。

資産の現在価値

M&Aの実施時には、現在における資産価値に基づいて価値を算定します。例えば決算書において、「土地」が記載されている場合、決算書上の土地は「購入時の価額」であり、現在の価値を示しているわけではありません。

昨今は土地の価格なども上昇基調にあるので一概には言えませんが、少し前までは大抵の土地は、決算書における金額よりも下がる傾向にありました。

「保険積立金」といった勘定科目も保険積立金の評価は解約返戻金の額で評価するので帳簿価額とは異なった評価になります。


上記のような例は一例ですが、債務や資産の現在価値の評価損(含み損)は企業価値を下げることになります。

逆に評価益(含み益)は企業価値を上げるため買収価格が高くなってしまいます。

買収企業としては、しっかりとこのあたりのリスクを考慮した上で、適正な価格を見極め企業の買収を実施していく必要があります。

リスク3 労務・人材のリスク

人的資本や労務は、経営の根幹となるものです。

しかし、M&Aによって組織の体制が大きく変わることが表面化するリスクも存在します。

未払残業代等

未払残業代は、財務においてもリスクで述べたとおり、非常にリスキーな案件であると言えます。

従業員に無理な残業を強いていた場合など、経営者(株主)が変わることで一気に表面化する場合があります。

また、一部中小企業においては、勤怠管理体制が脆弱なため、そもそも残業時間の把握などがあいまいな場合も多く存在します。

勤怠管理があいまいな会社は、メリハリがないパターンも多く散見されるため、従業員のモチベーションが低い場合なども存在します。

従業員モチベーション

企業の売却により、組織の風土が変わることが多くあります。

組織の風土の変更は従業員にとって非常に大きな影響を与えることになります。
M&Aの実施時においては、組織風土以外にも、業績評価の基準や労務管理の変更など従業員にとって影響となることは多数存在します。

良い影響であれば、それは組織を活力化させる源泉になります。
しかし、悪い影響を与える場合もあります。

悪い影響を与えた場合、それは従業員のモチベーションの低下を招き、離職に至るケースも少なくはありません。

中小企業の場合、人的資本により事業を支えているケースは多く、熟練の加工技術を持った職人などが品質を担保していることがあります。

例えばそのような職人の離職は、企業の価値を大きく損なうことに繋がります。
買収した企業の価値が結果として下がってしまうことに繋がりかねないのです。

リスク4 経営のリスク

M&Aは、異なる企業を自社に取り込む作業となります。

その過程において、経営の統合を行っていく必要があります。この経営統合作業をPMI(Post Merger Integration)と呼びます。

実はこのPMIと呼ばれる作業が一番の曲者で、買収まではうまくいってもここで効果を上げることができず、結果M&Aが失敗に終わる。


そのようなケースが多く存在します。

PMIに関しては、別のブログにもありますのでそちらをご参照ください。

いかがだったでしょうか?

今回はM&Aの買収時におけるリスクについてお話させていただきました。

次回は、M&Aにおけるリスクの回避方法についてお話させていただきます。

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